第5章 手乗りストライダー観察日記開始
「こんにちは、ストライダーさん。私はサツキ」
と話しかけてみると、ストライダーはあまり変化のない顔でこちらを見つめ返してきた。
色んなMOBは見てきたつもりだけど、こうしてストライダーをまじまじと見つめることはなかったので表情の変化まで見分けるのは難しかっただけなのかもしれないが。
とはいえ、運動をさせるとはどうしたらいいのか。何も考えていなかった私は辺りを見回したが、この部屋には何も置いていない。空っぽの棚だらけで妙に不気味だった。
私は資料を見ながら、人間に飼育されていたストライダーなら、人馴れはしているかも、と飼育カゴに手を差し伸ばした。噛み付く可能性もあったので厚手の手袋を嵌めて。
ストライダーは少し戸惑った様子だったが、すぐには近付いてきて私の手の平に乗って来た。手乗りMOBとしての動きと対して変わらないような気がした。
「こういうところは普通に歩けるのかな?」
とストライダーを床に下ろしてみると、最初はゆっくりと、それからダッシュして走り出した。
意外にも早い動きに私は驚いたが、ストライダーはなんてことはないとでも言うかのようにテクテクと走っては歩き、辺りを見回す仕草をしてからまた走ってはと部屋の中をしばらく探索して回っていた。
ストライダーだけでなく、他のMOBたちの平均寿命は十年程度だ。
とはいえ手乗りMOBはそれより長生きする、または半不老不死であることは一般常識になりつつあった。ゾンビや魔法の使えるMOBなら寿命はないようなものだと聞いたことはあるが、私は今までそのようなMOBを飼育したことがないので詳細はよく分からない。
「……でも、結構長生きよねぇ」
私はテクテク歩いたり走ったりするストライダーを目で追いながら呟いた。ストライダー特有の歩き方が、ちょっと可愛いと思った。