第1章 キミが泣いたあの日
雲が形を変えながら流れていくのをぼんやりと眺めていた。見下ろした街は奥の方から少しずつ綺麗なオレンジ色に染まっていく。
近くの木に1羽のカラスがやってきた。するとそのカラスを追いかけるようにもう1羽飛んできた。
2羽は仲良さげに寄り添って、互いを羽繕いする。
『…仲良しだね、キミたち』
そう呟くと、後ろからパキッと枝を踏む音が聞こえた。
驚いて振り返るとそこには、青と白のジャージ姿でエナメルバッグを背負う彼が立っていた。
試合終わったのか…私は思ったよりも随分長くここにいたらしい。
瞬時に脳裏に蘇る体育館での姿。
まさかここで顔を合わせることになるとは思わなかった。私にあの出来事を知らない振りが出来るのだろうか。
『あー…びっくりした、いつからいたの?』
「今」
そう短く返した彼は、何を言うでもなく重そうなバッグをドサッと地面に下ろして私の右隣に腰掛けた。
しばらくの沈黙。
遠くで電車の走る音や救急車のサイレンが聞こえる。
私たちは生まれた時からの幼なじみだ。沈黙が気まずいなんてそんな感覚これまでに一度だってなかった。でも今日はいつもと訳が違う。
チラリと横目で彼を見ると、先程の2羽のカラスの様子をジッと目で追っていた。
その姿があまりにもいつもの彼で、あのコートでの姿は夢か幻だったのではないかと錯覚してしまいそうだった。
しかし、次の瞬間にはあれは現実だったのだと引き戻された。