第3章 お題小説 Lemon
七海が呪術師を辞めた。
2年の時のある任務を終えてからずっと考えて、考えて、考え続けて選んだ道だったらしい。
私は七海がそんなふうに考えていたなんて全然知らなかった。悩んでいたなんて分からなかった。
ずっとずっと七海のことを見ていたのに……
七海の背中はどんどん小さくなっていって、やがて道の向こうへ消えていく。
最初は眩しいその髪に見惚れた。
きらきらと光を反射する金髪、あんな綺麗な髪、生まれて初めて見た。
今思えば一目惚れってやつだったんだと思う。
次は落ち着いた声、そして優しい心。
授業で分からないところがあると、分かるまで怒らずに教えてくれた。
体術訓練でずっとビリだった私を待っててくれた。
いろいろとズレているらしい私の行動をいつも止めてくれた。
そうして私を虜にしたあなた。
だけど私はあなたが悲しんでいるのに気づけなかったみたい。
「七海のこと、止めなくてよかったの?」
去っていく七海の背中を一緒に見送った五条先輩がそう聞いてくる。
止める……?
なんで?
意味が分からない。
そんなことをしたら七海が悲しむでしょ。
「止める気なんて最初からないですよ」
私は七海をこれ以上悲しませたくない。
七海がここを去ることで悲しまなくて済むのなら、それを止める理由なんてなかった。
……ああ、でも、
七海を悲しませた呪術界をこのままにしておくのはちょっぴりむかつくな。
「……私、五条先輩に協力します」
「ん?」
「七海のこと、悲しませた呪術界を私もぶっ壊したいです」
もう手遅れかもしれないけれど……
私、今度こそあなたを悲しませないよ。
―了―