第16章 もう一度
ある休みの日。
私は、公共機関を乗り継いで、あの森までやって来ていた。
蛇白神社がそんなにすごい場所とは知らなかったので、もう一度訪問して自分の分のお守りも買おうと思ってウロウロしていたのだが、とうとうそんな神社なんて見つからず、結局私は住宅街に舞い戻って来ていた。
仕方がないので近所の人に蛇白神社について聞き回っていたのだが、皆口揃えて「そんな神社はない」と言った。
白蛇さんから教えてもらったネットのマップも今はスマホのどこにも履歴すら残っておらず、もう一度行くのは困難だった。
そうして数時間も時間を潰してしまったのでさすがに帰ろうかと諦めた時、一人の老婆が私に話し掛けてきた。
「あんたが、蛇白神社を探している子かい」
色んな人に話を聞いて回っていたからだろう。この辺りの人に私のことはすっかり知れ渡っているみたいだ。
私は頷いた。
「はい、そうです。おばあさんは何か知っていますか?」
と訊ねると。
「あたしもね、遠い昔に行ったことはあるんだよ、一度だけ」と老婆は語り始めたのだ。「だけどね、あの後もう一回行くことは出来なかったのよ。きっとあの場所は、選ばれた人が一度だけ入れるところなのよ」
「選ばれた人が……」
だから白蛇さんは、私に勾玉を買いに行かせたのだろうか。しかしそうだとしても、私が選ばれなかった場合、どうしていたのだろう。それとも、白蛇さんは私があの神社に選ばれたことを知っていたとでもいうのだろうか。
「だからね、蛇白神社のことは秘密にしておいてやって欲しいのよ」と老婆は言う。「あたしたち人間が、何度も行っては行けない場所なのよ」
きっとね、と付け足すと、老婆は踵を返してゆっくりとこの場から立ち去った。不思議な話を聞いた気がした。だけどそれは、なぜか信じてもいいような、強い何かを感じた。
「……分かりました、おばあさん」
立ち去る老婆の背中に呟くように言い、丁度やって来たバスに乗り込んだ。もう一度振り向くと、あんなにゆっくり歩いていたのに、あの老婆の姿がどこにもなくて息を飲んだ。