第5章 芸術の秋…とかしてみたり
『あの、巴さん…、
来週の土曜日の事で…相談って
程の事じゃないんですが、
話したい事があって…』
その日も…
家に泊まりに来ていた、彼が
そう私に話を切り出して来て。
来週と言うと、
今日は9月の30日だから
来週は10月7日になる。
「来週の土曜日が…どうかしたの?」
『ええ、前に…一緒にデートで
美術館に行きましたよね?県立の。
県内は県内なんですけど、
別の…美術館に行きませんか?
丁度今、ちょっと…
興味を惹かれる内容の特別展を
今…、その美術館でしてるみたいなんで。
巴さんと…一緒に…
観に行けたらなぁって思ってて…』
そう言いながら定位置である
リビングの脚付きのマットレスの上で。
バランスをとりながら、港斗が
饅頭の形をした猫を積み上げていて。
「それは…別に行くのは
…問題ないんだけど…。珍しいね…、
あの時は付き合ってないのに
私を美術館に連れて行ったのに。
今回は…付き合ってるのに
そんな事…言うなんて…、
普通は逆じゃない?」
『いや…あの時は…夕方から
クルージングと…
その後が決まってたから…』
雄介さんは…美術館とかには
デートで行きたがる様な
人じゃ無かったから。
基本的におうちデート…ばっかりだし。
連れて行ってくれるって言ったら映画か。
それか漫画喫茶とか。
後は…ショッピングモールとか…そんなの。
どこか連れて行けば良いんだろって
そんな態度…だった…な…。
私が喜びそうとか…そんなのじゃなくて…。
デートってもんを
してやったんだぞ感が…凄かったしな。
『巴さん?巴さぁ~ん?
また……どうせ、雄介さんの事
…思い出してたんでしょ?』
「…うっ…」
『ほら、そうだから
すぐに、返事が返せないんでしょ?
まぁ…良いんですけど…ッ。
コスモスが…今は丁度、見頃ですし…、
ちょっと寄り道してコスモスでも
見てから美術館に行きませんか?』
もうちょっとしたら
紅葉も綺麗になりますねとか。
秋バラの時期になるから、
バラ園も良いですねとか。
11月になったら
宮島にでも行きませんかとか。
10月の話をしてるのに…、
もう…11月の話をしてるし…。
「秋の宮島…かぁ…、
紅葉も綺麗なんだろうなぁ…」