第5章 【降谷 零】バーボン
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────夜が明ける前、彼女はいつもあの男のもとへ帰ってしまう。
眠い目を擦り、シャワーを浴びて身なりを整え、バーで会った時と同じ姿で。
それを物分かりのいい振りをして見送る日々は、もう終わりだ。
彼女は僕と一緒になる。
今日は朝まで2人で寝て、目が覚めたらおはようのキスをして少しイチャイチャして。
朝食を食べて、これからのことを考えながらまたイチャイチャして・・・。
その時に彼女の本当の名前を聞いてみよう。
僕の名前も教えて、お互い呼び合って・・・・・・想像するだけで幸せだ。
────なんて、本気で思っていたのに。
「・・・フィアーノ?」
「あ、ごめん・・・起こしちゃった。まだ夜明け前だから寝てていいわよ」
「・・・どこへ行くんですか?」
メイクもドレスも昨夜バーで会った時と同じく綺麗な状態で、彼女からは石鹸の香りがする。
「ごめんね、バーボン。私はジンを裏切れない・・・」
「・・・昨日受け入れてくれたのは・・・あの愛の言葉は・・・・・・全て偽りですか?」
信じられない。信じたくない。
確実に彼女の気持ちは僕に向いている。
妄想でも虚言でもない。
これは愛し合っていた・・・昔もらった想いと同じなんだ。
「この組織にいるべきではない人間はあなたよ・・・バーボン。いえ・・・降谷零くん」
「ッ!?」
「今ならまだ引き返せる。ジンが気付く前に、誰にも見つからない場所へ逃げて。もう私達の前に現れないで」
「フィアーノ・・・あなたは、ずっと・・・」
「楽しかったわ。今までありがとう。これ、いつも持たされてる盗聴器・・・・・・壊したから、あなたとは今日で終わり。元気でね」
フィアーノは高いヒールを控えめに鳴らして、思い出の部屋から去って行った。
いつから知っていたのだろう。
知っていて、ずっと僕を守ってくれていたのか。
君の涙を拭ってあげられなくなってしまって、ごめん。
ありがとう、フィアーノ。
これが彼女から僕への、愛だ。