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【文スト】触れた指先に【坂口安吾】

第1章 序章


朝、カーテンから零れる日差しの眩さに目を覚まして。
大学へ行って、講義が終わったらバイトして。
それが終わればまた家へ帰る。

大学に入ってからの3年、だいぶ慣れたこの生活もあと1年。

大学を卒業すれば、しばらく今みたいに好きに過ごすことも難しくなるだろう。


「はあ……」


思わず小さなため息が出る。

というのも、私が大学を卒業すれば家業に携わらなくてはならないことは決定事項で。
昔から決まっていたことであったから覚悟していたつもりだけれど、一度でも普通の生活を知ってしまったらこの場に居たいと思ってしまう。

どうしてそんなことを今更考えているかというと、数日前、臨時で家から招集がかかったからだ。
親戚一同が集まるからどうしても来てほしい、と。

そうして私は今、ヨコハマ郊外にある実家へと電車に揺られ向かっていた。

しばらくして電車を降りるなり、10分ほど歩く。

そうして実家の近くまで着くと、随分と見慣れた屋敷を見上げた。

私の家は昔から続く由緒正しき家系らしい。
とはいえ、そんなことを言われても現代を生きる私にはいまいちピンと来ない。

昔から長く続く家業で今でも生計を立てているというけれど、何をしているのか私自身もよくわからない。

ただ、今でも栄え続けていることだけは、昔から見ている家の人や親戚の羽振りを見ればよくわかる。

私もその恩恵を受けた1人だという自覚はあった。

昔から衣食住に困ったことはないし、今だってバイトはしているものの不自由なく暮らしているのは実家からの仕送りのおかげだ。

それは別に、私が家だから、という理由で支えてくれているわけではない。

それに気がついたのは中学生の頃だ。




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