第3章 𝔸𝕘𝕒𝕡𝕒𝕟𝕤𝕒𝕤𝕦
ヒッ…喉の奥に何もかも引っ込んでいく
私の声の何倍もの大きな声量にただ怯えるしかなかった
『…た、確かに票は緑谷くんに入れたよ…?
でもそれは緑谷くんがとても優しい人だか…っ』
言いかけてすぐにやらかしてしまったことに気付く
それじゃ"爆豪くんは優しくない"と言っているようなものではないか
口を噤んだものの、爆豪くんは怒りで体を震わせていた
顔横に置かれてる手から微かに「バチィッ」と鳴る
そして私はここで思わず個性を発動してしまう
やらないとやられる、動物の本能のような衝動に駆られたのだ
このときはまだ
これが後に危機的な日常に繫がるなんて思いもしなかった
「…ッグッ!!!!」
私を自分の顔を覆っていた両手を静かに降ろす
……私…今…何した……の?
オロオロとしていると、目の前にいた筈の爆豪くんが階段の一番下にしゃがんでいる。爆豪くんは目を固く閉じ、歯をギリギリとさせていた
自分の顔から血の気が引いていく
…もしかして…
私は自分の両手を恐ろしいものをみるような目で見下ろした
私…太陽ほど眩しい光を彼に放った…の?
平気で目を潰せるくらいの高度でいとも簡単に失明ものだ
考える暇もなく階段を駆け下り、爆豪くんの側まで寄る
『ば、爆豪くん…!!ごめん!!わたし…咄嗟に…!目大丈夫…じゃないよね…!!ごめんほんと…』
ハッ…息を呑む
それは恐ろしくて
さっきまで湧き出ていた心痛はいとも簡単に消え去り
代わりに恐怖という言葉にすり替わる
私が一歩一歩後ずさる度に彼がその距離を埋めていく
不敵な笑みに目が離せなくなっていた
「…ついに本性表しやがったな…このピカピカ女がッ」
意識のない個性発動だとしても
あの一瞬で後ろに下がるなんて…
とんでもない反射神経に気圧される
私が躓き、後ろに倒れるように尻餅をつくと
爆豪くんが私の目線に合わせて屈み、今までどれよりも一番大きい声量で言う
「てめェがオレに何してこようが全部返り討ちにしてくれるわ!!!!!
精々全力で挑んで来いやァ!!!!」
フンと鼻を鳴らし彼は背を向け帰っていく
残された私は、そのとき…心の片隅でどこか終わったつもりでいた
彼との物語はこれからだというのに