第3章 𝔸𝕘𝕒𝕡𝕒𝕟𝕤𝕒𝕤𝕦
トン、足音にハッとする
誰か来たと思うには遅すぎて、その人物はもう近くいた
私は泣き顔を隠したくて咄嗟に顔を下げる
「何やってんだ」
轟くん…!!
階段から来たということはまだ校内にいたんだ
私は彼だということに安心してしまい、つい顔を上げる
けど案の定轟くんは、私の涙で濡れた顔を見て一瞬固まってしまう
何か言い訳しないと誤解される…!
『あ、えっと、ね!これ!
泣いてなくてっ、ちが…泣いてるんだけど
何かあったとかじゃなくてっ…』
言い訳しようとする度に沼に飛び込んでいく気分だった
轟くんは先程と変わらない無表情でこちらを見てるだけ
段々言い訳していくのに疲れて、肩の力を抜き黙り込む
静まり返った玄関でためらいのない足音が響く
音は徐々に大きくなり、気付けば轟くんが目の前に立っていた
目元に温かい感触が当たる
轟くんの親指が器用に目元の雫を拭い去る
彼の手が離れていった時、ぼぅっとしていた頭が目覚め轟くんが私に触れて拭き取ったのだと理解した
『ぁ…だめ!汚いよ…!!なんでなみだっ』
轟くんの行動に思わずびっくりして大きな声を出してしまう
彼は何も悪くないのに責めるような自分の言い方にズキズキする
「掴めるかもって思った」
『…なにを?』
「余りにも綺麗だから掴みたくなった」
私は彼が吐いた言葉の意味が分からなかった
涙のこと…?けど私の涙が綺麗なわけない
私は伝わらないという風に彼を見つめる
すると彼も私を見つめ返す
その視線がどこか擽ったくて熱かった
「わりぃなんでもねぇ」
私と轟くんの影は今日も一緒に並んだ。轟くんは泣いていた理由については聞いてはこなかった。興味がなかっただけかもしれないけど、優しさが隠れているようにも感じた