第8章 𝕊𝕦𝕟𝕗𝕝𝕠𝕨𝕖𝕣
ひかれてる……?
足音を耳が拾い、顔を上げると勝己くんが階段から少し離れたとこで立っている。背後の窓から溢れる光に囲まれて彼の姿が眩しくて神秘的だった。
私を見下ろす瞳は誰よりも嘘がなくて信じられるものだと思った。
『…勝己くんわざわざなん…』
「いい加減ハッキリしろ」
勝己くんは通話を切り、詰め寄ってきて反射的に後ろに後ずさろうとしてしまう。自分が階段を登っている最中など忘れて。
『…!キャッ!!』
体の重心が後ろに引っ張られて重力には逆らえない。それなのに腕だけを必死に伸ばす。
前に起きた似たような出来事が頭の中で広がる
でも同じじゃなかった
伸ばした腕を今度は掴み、力一杯引っ張って胸の中で私を強く固く抱き締める。
「…二度も落としてたまるかよッ」
後頭部を抑える手が一段と強くなって胸元により顔が埋まる。それはまるで自分の顔を見せたくないみたいで、自然とその状態のまま私は喋ることもできなければ動けなかった。
どんなときも強いキミでいてくれようとして
『ありがとう、助けてくれて』
ようやく溢れた言葉に彼は力を緩め顔を上げてく。そこには無愛想でいつもの不機嫌そうな彼がいて、でも私を見つめる瞳は誰よりも優しい
「詫びるくらいなら最初から落ちんな」
『別に落ちたくて落ちてるわけじゃない』
「落ちてんだから一緒なんだよ階段使うな」
『空飛べる個性持ってたらそうするっ』
訪れた沈黙も決して不快ではなかった。言葉を探してる訳じゃないけど探り合うようにお互い視線を絡み合わせる。
『…私ね、やっぱり色々考えてみたけど
進むことにしたの。轟くんのこと待ってる。
すごく不安だし傷付くかもしれない』
でも不安より自分が傷付くことより
その人の傍にいたいと、そう思える
『轟くんといることが…大事だと思うから』
勝己くんは何も言わなくてただ私を見つめるだけ。やっぱり彼になら私の言いたいことちゃんと届くし伝えられる
『…そういえば勝己くんは私になんか用があ』
「いい加減もうやめろってんだよ」
え、小さく漏れそうになる声は飲み込まれてなくなる。腕を強引に掴まれ前に引き寄せられては唇を奪われた。