第6章 恋の行先
私は今日も、夕暮れの河川敷で階段に腰をかけ、
穏やかな川の流れを見つめること数十分。
ザパ-ン……
「ハァ……今日もしゅっぱいだ………ああ、千紘ちゃん、今日も来てくれたのかい?悪いねぇ。うう……寒い寒い。」
川辺から私に手を降り歩右寄ってくるのは、全身びしょ濡れ姿の太宰さん。
彼は私の元に辿り着くと、私の前にしゃがみ込んだ。
「……放っておこうと思ったけど、風邪を引かれると余計に面倒臭くなりそうだから。」
「君は私に甘いのだねぇ。其れなら、一緒に入水してくれたらいいのに。」
鞄から持ってきたタオルを取り出し、
拭きやすいように態と私の前にしゃがんでいる彼の頭を、
絶対に嫌だと云う気持ちを込めて、ガシガシと強めに拭いてあげた。
「ねえ太宰さん、如何して、いつも入水なの?」
「何ね、私は痛いのだとか苦しいのは嫌いなのだよ。」
「……あっそ。」
〝暗闇の中で独り取り残され、ただ泣いている子供だ〟
いつの日かサクは、太宰さんの事についてそう云っていた。
彼は生きる意味を見出せないから自殺を図っているんだろう。
今になって、サクの云っていた事が判るような気がする。
だから彼は自殺を図る、ってのは何だか寂しく思う。
彼の頭を拭く事を辞めタオルをそのままに、
私は立ち上がると階段を登り探偵社へと足を進めた。
「冷たい。君は川の水温よりも冷たいねぇ。」
「本当に死にたいのなら、入水に失敗した貴方を迎えるのは辞めにする。」
「それは困った。君が待っているから戻ってきているのに。」
じゃあ入水を、死のうと思う事を辞めてくれたらいいのに。
なんて事は彼に云える訳もなく、其れを云って仕舞えば、
彼が生きていると実感する機会が無くなる気がして云えない。
私が後ろを振り向くと、後ろを着いてきていた彼の足も止まる。
「君もいい加減、認めたらいいじゃあないか。私の事を好きなんだろう?」
彼は近づいてくるなり、私の髪を耳に掛けながらそう尋ねた。
好きだけど、いつかふと消えてしまいそうな貴方が嫌い。
嫌いだけど、私にいつも希望を与えてくれる貴方が好き。
愛おしそうに私に触れて、私を見つめる貴方がとても好き。
……なんて事、云わないけど。
「そろそろ私と恋人になるなんて如何かな?」
「……ドブ臭い。」
「酷い…」