第2章 譲れない気持ち
「……中也、少しの間、彼女のこと頼んでもいいかい?」
「あぁ?何だよ急に。頼むも何も、手前のモンじゃねぇだろうが」
千紘を家に送り、
車に乗り込んできた太宰は珍しく黙り込んでいたかと思えば、
暫く車を走らせた所で急にそんなことを云い出した。
「彼女の傍には居られない……凡てが片付くまではね」
「凡てって何だよ。」
「……ちびっ子マフィアに判るもんか。……まァ大方、彼女の方が耐えられずに私の元へ来ると思うのだけどねー。」
「………チッ…手前、また変な事考えてんじゃあ無ぇだろうな」
「……兎に角、頼むよ。」
信号で車が停まった隙に太宰の方を向くと、
此奴は窓の外を見つめ、
出会った頃の様な薄気味悪い表情をしていた。
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〝頼む〟つったって何をだよ、何て考えていたが、
部屋に押しかけてきた千紘を見るなり、
こういうことか、と何となく察した。
……俺だって、随分と前から此奴に惹かれてんのに、
其れを解った上で俺に頼みを入れてくる彼奴に腹が立つ。
余裕だってのか。
「………中也、さん…?」
まぁいい。
俺に此奴を任せた事を後悔すれば良い。
………と思いつつ、
太宰の話ばかりをする千紘に腹が立ち、
こんなにも大胆な行動に出てしまった自分が今更恥ずかしくなってきた。
「………一寸だけ、こうさせてろ」
………今顔を見られると、顔が赤くなってんのがバレるだろうが。
俺にも、譲れねぇもんってのがあんだよ。