第1章 眠り姫
空を眺めて不意に脳裏に過ぎったのは、日光一文字の顔だった。
視線を隣に向けて自分の傍らに日光がいることを想像してみては、溜め息が漏れる。
あの日光の事だからきっと、上下関係を重んじているのだろうなと。
「小鳥、今夜は冷える。上着を羽織った方が良い」
「……あぁ…うん…」
「…心ここに在らず、だな」
ボーッと月を眺める主は、遥か遠くを見ているようにも見える。
困ったように笑う山鳥毛は、主の傍から少し離れた。
「…主の奴、また月見をしながら物思いにふけているのか」
「よくあるのか?」
「ああ、今はそっとしておいてやってくれ」
主が月見をすることは、最近顕現した刀以外は皆知っていて、誰も何も言わずにそっとしておいている。
場合によって刀の誰かが主の話し相手になっていたりもして。
「小鳥のことを、よく分かっているんだな」
「…主と過ごした時間が一番長い刀からな」
山姥切国広は、自分がこの本丸に一番最初に配属された刀だと言う。
刀剣男士の数が今より少なかった時は自分もよく怪我をし、手入れ部屋には何度も世話になった。
主の霊力を使わなければ癒えない程の深手を負ったこともあった、と。
「君も小鳥の霊力に世話になった刀の1人…ということか」
「…ああ。今は主にあの霊力を使わせなくてもいいくらい、強くならなくてはいけないと思っている。
俺だけじゃない。薬研や燭台切光忠も、きっと同じことを思っているはずだ」