第1章 おんりーチャン目線
通称「ぼん」と呼ばれる俺のクラスの担任は、そのドジ故にみんなからのいじられキャラだった。
ある日なんて授業中に使う資料を忘れた忘れたと騒ぎながらクラス全員に笑われて。俺が「一番下にあるやつじゃないですか」と言わない限り、授業が終わっても気づかなかったくらいだ。
一体いつもどのように生活出来ているんだろうと思うくらい、彼の生活が気になるほどには……何かしらの感情を抱いているのは、さすがに俺も自覚をしようとしていた。
「みんなー、授業始めるぞ〜」
今日もまた、そう言いながら教室に入って来たぼん先生の頭上から、物が落とされる。毎回やられているのに、どうしてこうも同じ失敗を学ばないのだろう。
「うわ、これ誰〜? 物は大事にしなきゃでしょ」
そう言いつつもヘラヘラ笑いながら落とされた物を拾うぼん先生。思わず助けようと一緒に片付けると、俺も後ろ指を刺されたが構いはしなかった。
また優秀ぶったおんりーが先生に媚を売ってるよ。
いつも一人でいるから、いつからかそんなあだ名がついたらしい。悪い気はしなかった。だって俺によく似合っている。
「ありがとね〜、おんりーチャン」
ぼん先生は、俺のそのあだ名を愛称であると信じて疑っていない。だから彼も俺のことをそう呼んだ。別にそう呼ばれることに不快感はない。もっと言うなら、チャン付けしてくれるのはぼん先生だけだ。
「それじゃあ授業を始めるぞ〜」
自分が生徒からイジメられているというのに、相変わらず明るく笑う彼は、どこまでも人のことを許してちょっとだけ危うい。この人はいつか、妙なツボを売られても何かしら理由をつけたら買ってしまうんじゃないか。そんな危うさを持っている人だった。