【現在HUNTER×2イルミリク執筆中】短編集【R18】
第12章 【合同リレー】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
誰かが言った。
無一郎は自分に無頓着だと。
誰かが言った。
彼は記憶障害で苦しんでいると。
誰かが言った。
そんな無一郎にゆずはが必要なのだと。
ゆずはは無一郎の着物の袖をぎゅっと握って、無一郎を見上げた。
無一郎の無表情の目線は、もう気にならなかった。
「あなたは柱様です! あなたの命はあなただけのモノじゃありません! あなたが傷付けば!困る人がたくさん居ます! …心配する人が……!」
ゆずははそれだけ言うと、無一郎の腕に頭を下げた。
ゆずはの腕を払わずに、無一郎はゆずはの言葉の続きを待った。
「…心配する人が…私だけだとお思いですか?」
無一郎の腕を掴むゆずはの手が震えている。
それだけで、この手を払う理由は無かった。
「……私が無一郎様の傷の心配をするのが、そんなに疎ましいでしょうか?」
フルフルと体を震わせて、今にも泣きそうなゆずはの顔に。
無一郎はハッと我に返った。
「ゆずは…要らないと言ったのは…」
本当にたいした事ないと思っていたからだ。
ゆずはが心配する様な傷では無いと、伝えたつもりだった。
無一郎はあらためて自分の体を見た。
鬼にも傷付けられた事の無い体が、血を流している。
「…………」
この姿を見て、ゆずはが手当をしたいと思うのは当たり前だった。
ぎゅっと離さないゆずはの手を見て、無一郎は小さくため息を吐いた。
「……ゆずは…傷はたいした事無いんだ」
そんな筈は無い。
流れている血がそれを物語っている。
「いいえ、私にお見せくださいませ」
ぎゅっと目を顰めて、ゆずはは無一郎に言った。
そんなゆずはに、無一郎は折れてゆずはに従った。