第4章 うらはらハート
彼女はいわゆる幼馴染というやつ。
ちっちゃくて馬鹿でドジで、おまけに馬鹿。
馬鹿という言葉がつい二回も出てしまうほど彼女の脳みその容量は少ないように思われる。
そういうわけで彼女は子供だまし(例えばパッチンガムとか)のいたずらに何度も何度も引っかかってくれる。俺もからかい甲斐があるというものだ。
そんな彼女の挙動が明らかにおかしくなったのは今年の春頃。
いつも以上にうわの空で、俺のいたずらにも無反応。しかもいっちょまえにため息までついてアンニュイモード。
でも原因はハッキリとしていた。真田だ。
真田がうちのクラスにくると顔を赤らめ、急に練習を見に来たとおもえば、真田のプレーを見て目を輝かせる。
いくらなんでも分かり易すぎる。
つまり彼女はあろうことかあの真田に恋をしてしまったのだ。
それに気付いてからというもの、俺の心はどうにも落ち着かない。
なんで真田に恋してるんだよ。
おれのほうがおまえと長い間一緒にいたのに。なんでぽっと出の真田なんかに……。
ん?
なんだこれ。これじゃあまるで俺が彼女に恋をしているみたいだ。
そんなのあり得ないだろ。だっておれの好みじゃないし。見てるだけでイライラするし。馬鹿だし。馬鹿だし。
そう自分に言い聞かせても、今日も今日とて愛おしそうに真田の後ろ姿を見つめる彼女を眺めていると、なんとも言い難いモヤモヤが襲ってくるのは事実で。
深く考えれば考えるほど俺が認めたくない事実が浮き彫りになりそうなので、
(これはきっと真田にファンが増えたのが悔しかっただけだ)
という結論に至ったことにした。
もしくはこの問題は迷宮入り、ということにしよう。
(この人を好きになってはいけないと思ったら恋の始まりです)