強くて、脆くて、可愛くて【東リべ夢】〘佐野万次郎夢〙
第1章 最強の男
三ツ谷君の魅力的なお誘いに、少し気持ちは揺れるけど、さすがにこれ以上お世話になっては駄目だと思ってしまう。
「遠慮すんなっ! 待ってんだろ? ケツ乗ってけ」
「え、あっ、あのっ……」
三ツ谷君の申し出を断る私の手を取って、彼は歩き始める。
あっという間に、ヘルメットを被せられ、体が浮いた。
まさか、そこまで身長も変わらない人に、こんな軽々と持ち上げられるとは思わなくて、なすがままになる。
「お前等先行ってていーぞ。後で追っかけるわ」
「おー、じゃーな、」
三ツ谷君の声で我に返ったけど、今更降りる訳にもいかず、お言葉に甘えようと思う。
「しっかり掴まっててー、落ちるといけねぇからさー」
初めて乗るバイクの大きな音に驚きながら、彼の腰を掴んだ。
「そんなんじゃ、落ちちゃうよ?」
手首を掴まれ、お腹の方に回す格好になる。まるで、抱きついているみたいで、少しドキドキする。
「いっくぞー」
ゆっくり走り出したバイクの動きに体が引っ張られるのを、抱きつく事で阻止する。
最初は怖くて目を閉じていたけど、目を開けてみてと言われて頑張って開けてみた。
特に何か凄く特徴がある訳ではない、毎日のように歩いている歩き慣れた道から見る景色と、バイクに乗って見る景色とは全然違って、まるで知らない場所のように見えた。
静かな場所なので、少し手前で停めてもらう。
「あの、ありがとうございました。すみません、送ってまでもらってしまって……」
「いーよ別に。つか、タメだろ? 敬語使わなくていいよ」
人懐っこい笑顔で笑う。
「あ、お前、名前は?」
「あ、すみません、です」
「敬語いらねぇって。俺は、佐野万次郎だ。よろしくな」
白い歯を見せて満面の笑みを浮かべた佐野君が、差し出した手を握った。
彼の名前は聞いた事くらいならあった。
最強の男。
だけど、もっと怖い人をイメージしていたのに、そういう人とは全然違って柔らかい。
「ねーちゃんっ!!」
「ねーねっ!」
背後から声がして、振り返った瞬間下の弟が飛びついて来た。
上の弟は私と佐野君の間に入る。
「おいっ、お前っ! ねーちゃんの彼氏か?」
「こら、昴流(すばる)っ!」