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二人の航海者

第3章 心のフィルム


「フランソワ!何を勝手に食材を買い込んでいる!?」
玄関で七海龍水がクワッ!と三白眼をかっぴらいて叫ぶ。その声で六道院蒼音とフランソワは振り返った。フランソワは龍水の執事だ。この高級マンションも、本来ならば常駐している筈のコンシェルジュがいるらしいが……何故か外された。

肝心のそこを抜くのか?と蒼音は思ったが、彼は止まる事を知らない。そんな暴れん坊な龍水の面倒を唯一見る事が出来て、かつ蒼音の世話もしているのがフランソワだ。彼か彼女か分からないが、凄く出来る仕事ぶりは勉強になるし蒼音も尊敬している。

「申し訳ありません、龍水様。今日は蒼音様がどうしても家庭料理にしたいと」
フランソワがぺこり、と頭を下げた。

「なんだと!?俺は既に五つ星シェフのレストランを予約済みだが」
「いや、龍水君。考えて私の生活費?うちの家計事情考えて??」

どうどう、と蒼音が二人の間に入る。突然娘が半ば家出の様に勝手に出ていき、しかも嫁入り前に男の子と同棲する様な物だ。堅苦しい六道院家からは許可こそ下りたが、生活費は貰っていない。龍水には既に歌の習い事等でお世話になっている。蒼音としては生活費まで世話になるのは心苦しいし、食費を切り詰めたいので料理くらいしたい。あと高級レストランは息が詰まるのでもう嫌だ。

「フゥン?そんなの気にするな蒼音。幾らでも俺が出してやる!!」
いや元は君のお金では無いぞ?お小遣いだから!と指摘しかける蒼音に、フランソワが耳打ちしてきた。内容に引きつつ、それで本当に行けるのか、と視線を送れば頷くフランソワ。仕方ない。我が演技力MAXをぶっぱなせ!!

「龍水君。君は五つ星レストランの方がいいんだね……?」
しんみりとした哀愁漂う蒼音が一歩前に出た。
「ん?ああ!」
龍水が自信満々に答える。そこでニッコリと新妻がエプロンを付けながら玄関に出てきた風のシーンを思い浮かべ、蒼音はぐいと龍水に顔を近付ける。

「………!?な、何をす」
赤面する龍水に構わず、左右に顔を揺らした。

「龍水君おかえりなさい!今日は五つ星レストランにする?フランソワさんの料理にする?それとも〜、許嫁の私の手料理に」
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