第2章 暖かな日々
海軍本部中将センゴクに兄妹のように育てられた2人は全く似ていなかった。
特に兄ロシナンテは人の庇護欲を引きだすのが上手い。これはわざとでは無く天性のものだと思われる。
どこか抜けていてあざとい様なのにそれが天然なのだ。
よく転び良く泣き、よく笑う。それがロシナンテだ。
妹はしっかり者だった。ロシナンテが転べば駆けつけ泣けばハンカチで拭いてやり優しく抱きしめる。
転んでは危ないと仲睦まじく手を繋ぐ姿も珍しくない。
だがそれは初めからではなかった。
2人が出会ったばかりの頃はロシナンテは転ぶ事も泣く事も多かったが笑う事だけは極端に少なかった。
もで、転んでは泣くロシナンテを冷ややかな目で見て手を差し伸べることすらなかった。
泣くなと叱責することも無く完全スルーを決め込んでいたのだ。
そんな2人を少しずつ変えていったのは育て親のセンゴクだった。彼は2人を平等に愛した。はじめは困惑し拒絶し噛み付いたがそれでも彼はめげずに投げ出さずに根気よく2人に向き合った。
は他人に興味が無いわけではなかった。育ったスラム街では周りの大人の協力無しでは生きていけなかった。食べ物も飲み物すら満足に手に出来ない生活は当たり前だった。だがスラム街の大人たちはに少しではあるが水も食料も分け与えた。
そうじゃなければまだ小さいが生きていけるわけが無い。
理由を聞いたことがあった。何故自分たちも苦しいのに自分に分けてくれるのかと。すると、の母の話をしてくれた。の母はお金持ちのお嬢様でスラム街の環境を良くしようと細々とではあるが、慈善活動をしていたのだと。その恩があるからを助けるのだと教えてくれた。
その母はどうしたのかと聞くと、みな口を閉じ答えてはくれなかった。大きくなるにつれ、自分は捨てられたのだと気付いた。理由は分からないが、でなければ自分がスラム街に居る意味が分からなかった。
物心ついた時からスラム街に居た。
慈善活動をしていたという母に会ったことがない。
の心にはこの2つがいつもグルグルしていた。
街を歩く子供の隣には母親なり父親なりが居るというのに、自分には居ないということが惨めでならなかった。