第4章 前世と今世
機嫌良くきゃっきゃっと笑ってるエースに私も顔を緩ませた。既に首が座ってる時期で、縦に抱えてあげながら揺すると喜んだ
……今はどうか世間の『鬼の子』に対する侮蔑を、血を継ぐだけでも罪だと言われる事実を知らないで。いつかは教えないといけない時が来るんだとしても、私が両親に貰ったようなありったけの愛を注ぐから。罪人の父さんを恨んでもいい、憎んでもいい、そんなの本人は覚悟の上で歩んだ道のりだったんだ。あの人の罪に縛られない自由を、愛と絆に触れられる相手を、望んで足掻いて良いんだよ
だって私達は私達でしかないんだから……
「……エースのためにも、わたしのためにも、『かしこくてつよくてりっぱなじょせい』になってみせるからね。しゅぎょーもべんきょーもがんばるよ、そらからみててね、おとーさんとおかーさん」
ご機嫌なエースを抱えながら外に出た私は、真っ青に晴れた真上の空を見上げてみる。太陽の光が眩しいあまり目を開けずらいけども、豊かに育った木々と風で揺らめく枝葉や、綺麗な空と日差しを五感で感じながら遠い昔の記憶を思い出す
あれは確か、父さんや彼の仲間と旅していた時だった。私を抱っこして甲板に出て来た父さんが大海原と晴天の空を見せ、処刑の時のような海賊王の不敵な笑みではなく、父親らしい豪快な笑みで言っていた
───「いいか、人はみんな海の子らしい……。俺は自由とロマンに魅せられ旅に出た、俺は世界から見れば海賊って悪党に過ぎねぇが……。それでもお前らは、ルージュもお前も後から出来そうな倅もよ、そんなもんに左右されず生きてくれ……。ならずもんの親父との、たった一つの約束だ」───
そう言った後の海賊王は私の頭をわしゃわしゃ撫でて来て、言葉をろくに喋れず理解も無かった私へ一方的に告げていた。確かに一般的な目から見ても、子供としても、あの人の所業は悪くも偉大すぎて。それでも嫌いになりきれない、その愛情の温もりがとても嬉しいものだから……
密かに仰ぎ見た空へ胸の内で誓いを立てる私と、私がその腕に抱いたエースを木々の隙間から見ている動物が一羽。この時の私はその存在に気づかなかった───