第8章 第七話 終末への幕明け
「彩音」
呼ばれた彩音が、どうしたの?と振り返る。
神田とユキサと合流のため、ドイツのミッテルバルトへ向かう前。
一泊するために取った宿のロビー、不二が心配そうな表情をしていた。
「元帥たちの護衛任務が大切なのは分かるんだけど…。…彩音の体は大丈夫なのかい?」
「あ……」
そういえば倒れたんだった。
何故か分からないけど急に胸が苦しくなって…。
今は治まってはいるが、不二はそれが心配なのだろう。
「今はもう大丈夫。心配かけてごめんね」
「…一度戻って教団で検査をした方が」
「うーん…長旅の疲れとか、そういうのかもしれないし…」
それに今は検査してる時間は無い。
千年伯爵たちは悠長に待ってはくれないのだ。
戻る意思の無い彩音を見て、不二がはぁとため息をついた。
「分かった。でも決して無理はしないで。辛くなったらすぐに言うんだよ」
「うん、ありがとう」
それじゃあお休み、と不二が部屋へ戻る。
彩音も部屋へと戻った。
体が休息を求めている。
服もそのままにベッドへ沈み込んだ。
―――――あの時。
急に胸に苦しみが走ったと同時に、何かを失ったような感覚がした。
何かは分からないけど、とても大切な何か。
「神田とユキサ、それからデイシャと合流してティエドール元帥を探す…」
彩音がぽつりと呟く。
とても長い旅になりそうだなとぼんやり考えていた。