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月を抱く

第1章 未知の味


「来ないの?」

彼女がなぜ躊躇わないのか自分には理解できなかった。
明らかにこの世ならざる光というのか霧というのか、ぬらぬらと蠢くそれは生き物の体内のようにも見える。
脈打つように溜め息をつくようにやたら重たい輝く霞みが脚を打つ。

「ニルダ、一緒に来ないと人間しかいない世界に行けないよ」

差し出された手を取る他に、私に選択肢があったろうか。
一歩、また一歩、蹴る水が生温かく変わる。
緊張に支配された四肢が強張っているのを感じる。

「足が、上手く動かないよ」
「……水があるから、歩きにくいね」

彼女は、進む歩みを止める様子はない。こちらを見る事もない。
不安から振り返るともう細くぼんやりした影が"数本"あることしか分からない。入り口は?
震えが止まらない、唐突な吐き気に手を振り払い膝をついてえづく。
ようやく彼女は立ち止まった。

「行かないの、ニルダ」

それに私は行くという以外、なんと返せば良いのだろう。
戻る場所はない、外は自分を食べようと付け狙う化け物しかいないこの世界で
目の前にいる人間が味方ではなかったら

私は───……
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