第2章 アクエリ。―――孤爪 研磨
# 1
「研磨。捻挫か?」
「あー…、うん、多分……」
蒸し暑さが滾る、なんでもない日の部活の練習。
特にサボろうとして、変な使い方をした訳でもないのに、足を捻ってしまったらしかった。
ちょっと腫れてるだけだし、まあ特に問題ないだろうと思って放って置こうとしたら、
「はあ!?病院行けよ、」
「………は、?」
「ほんとクロってさ……、もうほんと面倒臭いよね…。ほん
と…、はぁ……」
「研磨クーン。しゃーないだろ、悪化したらチームが困るんだし。
なあ、そんな溜め息吐くなって…。切ねえだろ…、」
「はあ、もういいや……」
「ちょっ、研磨…」
病院、めんどくさい。行きたくない。
暑いし………、
『松田先生、松田先生。外科5番ゲートへお願いします』
【GAME CLEAR】
ピッピ、〜♪
「ん、……あれ、」
いつの間に終わってた。
待ってるのも暇だからと時間潰しを始めたものの、どうやら結構混み合っているみたいだ。
もうゲームは一面終わりそう。
これ終わったら考えよ……、ていうか、
足、痛いな
「あげる、」
「へ、っ」
「またクリアした。おめでとう、はい」
何、………?
誰だろ、この子。
「おだいじにね」
笑顔で、たぶん座っているおれに視線を合わせて、屈んでいるんだと思う。
「!」
ひやっと注すような、感触。
頬に、差し出されたアクエリをぴとっとつけられる。
おれは恐る恐る、それを受け取った。
「じゃあね」
すくっと立ち上がり、笑顔のままおれに背中を向けた、その女の子。
そこでおれは初めて気付いた。
この子、病院着だ。
「あっ、………」
消えてしまうのかな、と思った。
そう思うととても、触れることだなんて出来やしなくて。
君はまるでRPGの、何回も攫われてしまうお姫様みたいな魔法をつかって、
おれを順調な旅へと放り投げた。