第84章 叶わぬ恋の先
シノ「誰だ。いつからそう思っていた」
シノ(……そんな素振りは見えなかったが)
シノは医療員から、そんな話は聞いたこともない。一体シノの知らない間に、いつそんな男が出来ていたのか。ぐいぐいと質問を投げかけていると、医療員は慌てて、それを否定する。
『ち、違います! あれは方便です! 気になる人なんていませんよっ』
身振り手振りも使って、それを伝えれば、シノは確かめるように、じっと瞳を覗いてくる。
『本当です! 第一、一度に色んな人へ気をかけれるほど器用な性格じゃないですよ』
そう言えば、ようやく納得してくれたようで、シノは「そうか」と一言そう落とした。
『キリさんの気が逸れればと思って言ったことですが……私も……』
これからは、シカマルではなくて他に、目を向けなくてはならないのか。
いつまでも、シカマルのことを好きなままでいてはいけないのだ。
そう思えば、まだまだくすぶり続けている恋心が、胸に痛みを訴えた。
シノ「ああ、これを機に他に目を向けてみるといい。お前は、心優しく、仕事熱心で、強さを持っている。そんなお前を見て、大切に思うやつもいる」
そんなシノの言葉が、少しくすぐったくて、胸の痛みを和らげてくれたような気がした。
『……ありがとうございます。本当にそんな方がいらしたら、嬉しいですね』
そんな風に、自分のことを見てくれる人がいるなら、それは凄く嬉しいことだろう。
シノ「ああ、案外近くにいるものだ」
『ふふっ。いつかそんな人が現れてくれるように、私頑張ります』
そうだ。
いつまでも塞ぎ込んでいてはいけない。
医療員が暗い顔をすれば、患者の人たちが、不安になってしまうかもしれない。
《……相手がキリさんで良かった》
相手がキリだから、素直に祝福が出来た。
キリとシカマルの。この二人の間には、入れないと思うことが出来たから、すぐに諦めることが出来たのだ。