
第8章 花割烹狐御前にて(夜)

月明かりの下、喧騒も眠りにつきだす夜道を白澤と一緒に歩いている。隣を歩く彼は(軽くお酒が入ってる性もあるが)ホクホク顔で笑う
「いやー、ツケの分も良いって。ありがとね石榴。」
「そりゃどうも。」
・・・あの後アタシがお相手したお客様は『迷惑料』としてそれはそれは良いお値段を包んで下さった。…ボッタクリな額のほとんどは妲己様が仕舞ってしまったけど約束通りツケと白澤が遊んだ今夜のお座敷代、それに加えてほんの少し『口止め料』として頂けた。
帰り際に「今日はアリガトウ。また困った時は頼んでいいかしら。もちろんムリ強いはしないから」と言いながらコーンと笑って居られた。
流石絶世の美女様だ、まるで気にかいしてない。
「あー疲れた、明日は気分転換にこのお金でお買い物に行こう!」
両手を上にあげて背伸びする。簪に着物が重くて体中がボキボキだ。
「お疲れ。コッチも楽しかったよ、色々と。」
「?」
「知らなかった?部屋にあった掛け軸の裏、隠し扉があったんだよ。そこから姿も声も駄々漏れだよ。」
その言葉を理解した瞬間に、顔が暑くなる。
「じ、じゃあアタシがあのオジサンに何されてたか」
「見てるよ。」
「も、もしかして」
「声も聞いてるからね、すっごく良かったよ。ご馳走様。」
意地悪く笑いながらアタシの背筋に触れてくる。チリチリとした痛みを思い出して、反射的に身を屈める。
小走りに離れてからその朱に染まった顔を睨みつける。
「悪趣味!変態!人の事なんだと思ってるの?!」
「危険な楽しみだとは思ったよ?もうしないからさ。」
「実際危なかったじゃない。」
もう、気持ちがのらない。
今から友達の家に行って朝まで過ごそう、そう思って駆けだそうとした手を彼が握りしめた。
驚いて振り返ればこうこうと輝く月を背後に真面目な目で
「でも、僕は助けたから。」
…やだな、イケメン過ぎて困る。
さっきまで他の女(ヒト)と遊んでたなんて思えない。
ふてくされた振りをして唇を尖らせてみる
「…今度頼まれたら白澤が断ってよ。」
「ヤダよ。一兎を追って二兎を得れるのになんでわざわざ止めなきゃならないの?」
「なら、っ今度も守ってよね!」
ッて言い掌を握ればギュっと握り返して
「…イイヨ。その変わり石榴とお店の格好でシたいな。」
・・・・・うん、前言撤回。やっぱり只のスケコマシだよ、この神獣!!
