第59章 それぞれの
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杏「要!」
縁側でうろうろしながら要の帰りを待っていた杏寿郎は、その姿が見えるとすぐに迎えるように庭へ降りた。
急いで括り付けられていた手紙を解き、縁側に腰を掛けて開くと懐かしい文字に目を細めた。
杏(…流石菫だ。有言実行したな。)
やはり二週間で事を終えられると知った杏寿郎の顔に笑みが浮かぶ。
一週間後には再び杏寿郎の屋敷で懐かしい仲間達と夜通し語り合え、そして、準備が整えばいよいよ祝言だ。
杏(夫婦になる時が着実に近付いて来ている。)
そう思うと、苦労して菫を口説いてきた杏寿郎の口角はどうしたって上がってしまう。
杏「煉獄…菫、か。」
千「菫さんがどうかされたのですか…?」
手洗いに起きてきた千寿郎が背後からそう問うと杏寿郎の心臓は大きく跳ねた。
それを誤魔化すようにきゅっと口角を上げながら急いで立ち上がり振り返る。
杏「うむ!手紙を貰った!!菫も元気だそうだ!!」
千「そ、そうでしたか…。」
驚いた杏寿郎は思わずそう大きな声を出してしまい、起きてきた槇寿郎に叱られたのだった。
(あと、少し…。)
菫も要が運んで来た杏寿郎からの手紙を胸に抱いていた。
そこには『待っている。』とだけ書かれている。
(もう余計には待たせたくない。あと一週間…全て納得させて悪い噂を払拭してこないと。)
菫はそう思うと頬を叩き、手紙を大切そうにサイドテーブルの引き出しにしまってからベッドに潜り込んだのだった。