第58章 休養―其の弐
杏「寝ていなくては駄目だろう…!」
杏寿郎はそう小声で言うと天元の体を心配そうに見遣る。
しかし天元はにやりと笑った。
天「もう大方治ったぜ!」
杏「それは気のせいだ!」
同じ事を千寿郎に言っておきながら、杏寿郎は天元に眉を寄せた。
天元は気にしていなさそうな顔をしながら菫に近付くと屈んで頬を突付く。
杏「宇髄…!」
天「お前らこれからどーすんの。」
その問いに杏寿郎は眉の力を抜いた。
天元が自身の事を心から心配してくれている時があると知っていたからだ。
杏「…今はまだ何も決まっていないんだ。」
そう言いながら天元の手を退かすように菫の肩に手を回して緩く抱き寄せる。
すると天元は再び気にしていなさそうに手を引っ込めた。
天「今の屋敷には住まねぇの?」
杏「俺は長男だ。煉獄家で菫を迎える。あの屋敷はお館様に返すか、断られれば千寿郎に譲るつもりだ。」
そう言うと天元は表情を変えずに『ふーん。』と言った。