天命と共に 【文豪ストレイドッグス】 サンプル小説
第1章 序章
不意に吹いた風が銀色の髪をさらった、和装を着た男が髪を抑えながら道を歩いていると、黒い猫が横切った
黒い猫が横切ると不吉なことが起こるとされているが、この男には関係ない
男は自ら、猫に近寄る
その手には煮干しが握られていた
膝を屈めると、煮干しを乗せた手を猫に近づけて気を引こうとしていた
そう、この男は生粋の猫好きだ
しかし、猫は好物であろうはずの煮干しに見向きもせず、手短な塀へと登り、そのまま姿を消した
想像がついている者も居るであろうが、気持ちとは裏腹にこの男は猫にモテなかった
原因が、顔なのか、雰囲気なのか……それは本人が知る由もない
しかし、その対応にも慣れているのか……心の底から、残念そうに息を吐くと同時に煮干しを懐へとしまった
そして、再び、歩くべく立ち上がり、ふと、視線を別の方へ投げかけるとーー向かいの道路に人の足元を器用に掻き分け、歩く猫が居た
猫好きの男が見逃すはずもなく、目で追うと、ある特徴に気がついた
「赤い毛に、二又の猫……か、珍しいな」
そう、その猫は通常とは異なり、赤い毛質に覆われている上に尻尾が2本も生えていた
しかし、信号もないため、向かい側へ行けなかった男はその猫を静かに見送った
だが、これが"後に物語を紡ぐための鍵となる出会い"だったことはーー
まだ、誰も……知らない話