第204章 開戦④
「――――ナナさん、速度を上げたら随分安定しました。抜けていいです。帰還したみんなの手当に回って!ただし3分で戻ってください!」
「はい!」
オニャンコポンさんの操縦の腕はさすがだ。私の操縦補佐なんていらないほど、見事にシナリオ通りにこの巨大な飛行船を操っている。
私は指示を受けてすぐにみんなが乗り込むゴンドラの後方、船室へと向かった。
操縦室からそこへ続く扉を開けると、奥の方に見えたのは……今までに見たこともないような容貌をした――――エレンだ。
「――――エレン……!」
「――――ナナ……。」
廃人のような目で私をチラリと見る。
その口元からは血が滴っていて、頬には殴られたような跡がある。縄で拘束されて、隣に腕を組んで立つリヴァイ兵士長の姿から私は察した。話したいこと、聞きたいことは山のようにある。でも……みんなの回収と重傷者の手当が先だ。
「エレン、後で診るね。」
ぐるり、と見回すと……――――サッシュさんが、いない。
慌てて船室から搭乗口に続く扉を開けて外に出ると、フロックさんを始めとした新兵・編入団員が作戦の成功を興奮しながら叫ぶ中、ちょうど戻って来たジャンとコニー、サシャと目が合った。
――――良かった、無事で。そう胸を撫で下ろした瞬間、私が声をかける前にサシャが大きな声で私に訴えてきた。
「ナナさん!!サッシュ隊長が変です!!」
「――――変……?」
サッシュさんの姿がない。様子がおかしいというサシャからの言葉に、胸がずき、と嫌な痛みを持った。
「ああ……俺達に退避命令を出したのに……自分は動かなくて……!」
「そうなんですよ!」
「―――変なこと考えてなきゃ、いいんすけどね……。」
「……っ兄ちゃん……?!」
コニーが一瞬、サッシュさんのいる方向に目をやった。
遠くない。
すぐそこに――――姿も見えてる。
でも、この銃声と強風で、声は届かない。
――――それなら、直接行って連れ戻す。絶対に。