第165章 明暗
「――――何がわかる?お前に……。」
「……わからない!!だって……だって何も話してくれ、ないじゃない……!」
「―――ッ……じゃあ黙れよ!!口を出すな!!」
僕はカッとなって、エミリーに詰め寄ってその胸ぐらを掴んだ。エミリーは一瞬ひどく怯えた顔をしたけど、また自身を奮い立たせるように、ぐ、と唇を噛みしめて――――……
「……っ嫌だ!!!わかりたい!!だから話してよ……っ……!ちゃんと聞くから……!!一緒に考えて、悩んで、泣いて……それくらいなら、できるから……!頼って、よ……!」
「わかるわけない、愛に溢れた家で育ったお前に……っ……、まっすぐなお前に……っ……、綺麗なお前に!!歪んで汚れた僕の、気持ちなんか―――――……!」
「……っ……ほら……そうやって、次は家と親のせいに、するんだ……!」
「!!」
「ロイくんはどうしたいの!?ねぇ、いいの?!ナナさんの笑顔を失っても………本当にいいの……?!………後悔、しないの………?!」
ぐぐ、とエミリーの襟元を掴んでいた手に、力がこもる。
義兄さんと同じようなことを言う――――生意気なこの口を閉じさせてやりたい。
このまま締め上げてしまいたい。
そう思う通りに、体が動いていた。
エミリーの小さな体が僅かに宙に浮くほど締め上げて、ぐちゃぐちゃの思考で僕は冷たく言い放った。
「――――うるさい……もう、黙れよ……!」
詰まっていく息に怯え、苦しそうにしながらも……まだエミリーは僕に言った。
「―――そんな、こと、したって無駄……、だよ…。」
「…………。」
「――――……だいすき、だもん………。」
――――呆れた。
あまりに馬鹿だ。
僕は脱力してその手を放した。
僕の足元に崩れ落ちて座り込んだまま咳き込むエミリーを見下ろす。エミリーは涙ながらに僕を見上げて、その曇りない目が、また僕をイラつかせる。
「……ッ…ロイ、く……。」
エミリーが次の言葉を発する前に、僕はもうこれ以上なにも聞きたくなくて―――――――研究所を出た。