第152章 可惜夜
南方駐屯訓練兵団から帰った日の夜。
2日後のウォール・マリア奪還作戦の前祝いが行われた。兵舎についてから少しの休息をとらせてもらって、随分身体も楽になった。
ベッドから体を起こして、みんなの様子でも見に行こうかと身支度を整える。
ふとサイドボードに置いていたエルヴィンから贈られたヴェールに目が行き、手に取ってまたまじまじとその美しさに見惚れながら、ふわりと頭にかぶってみる。夜の帳が降りて、まるで窓ガラスが鏡のように作用して――――、初めてそれをまとった自分を見た。
「わぁ………!」
まるで小さい頃ワーナーさんに見せてもらった異国の地の女神のような装いに、あの日のエルヴィンが囁いてくれた『俺の女神』という熱っぽい吐息交じりの声が耳元で蘇る。
とたんに顔に熱を持った。
結婚を拒んだくせに、花嫁の象徴である贈り物に心をときめかせているなんて……なんて面倒な女なんだろうと自分でも呆れる。
でも……嬉しい。
まるで自分が少し、綺麗なものになったようなそんな気分。
鏡代わりの窓に向かって、背を向けて裾のレースを映してみたり、くるくると回ってはふふ、と笑みが零れる。
その時、小さくコンコンと遠慮がちに扉が鳴ったと思うと――――、寝ていると思っていたのか、返事を待たずに扉が開いた。
「――――あっ……。」
驚いて振り返った先には、リヴァイ兵士長の姿があった。
「―――――………。」
リヴァイ兵士長はものすごく驚いた顔で目を丸くして私を見つめて黙った。
一人で何をしてるんだ、と思われたかもしれない、とすごく恥ずかしくなって、さっとヴェールをとって畳んだ。