第132章 仲合
「あんたの部下と街の住民を死なせて敗北するか、人類最高の権力を相手に戦うか。どうせ正解なんかわかりゃしねぇよ。あんたの好きなほうを選べ。」
「……は……素人が……。条件を全て聞かずに契約する馬鹿がいるか。」
「おっと失礼した。3つ目だ。今後リーブス商会が入手した珍しい食材、嗜好品等は優先的に調査兵団に回せ。紅茶とかな。」
「素晴らしい!!素晴らしい条件じゃないですか会長!!」
食い物に反応したサシャがうるせぇ。
――――が、リーブスはどうやら腹を括ったようだ。
「あんたは商人よりも欲が深いらしい。気に入ったよ。」
「――――あんたは頭がいい。交渉成立だ。」
俺とリーブスは固く握手を交わした。
「――――……。」
「あ?なんだ、どうした。」
「……いや……ナナと握手をした時にも驚いたんだ。小さくて柔らかな手だろうと思ったのに――――傷だらけで、まめだらけで。――――戦う人間の手、だったんだな。」
「――――いずれ会わせてやる。ナナにも。」
「そりゃありがてぇ。」
リーブス会長との交渉を終えて――――、今後の中央憲兵を捕らえるための作戦を練った。衝突すりゃあ、リーブスのチンピラと戦った時とは比べものにならない本格的な戦闘になるかもしれない。
――――それに耐えうるくらい、足も順調に回復している。
ふと足に手を添えると、俺の足元にかがんで、まるで自分が怪我をしたかのように辛そうに、かいがいしく手当していたナナを思い出す。
―――――この期に及んで、こんな状況でもあいつの顔が浮かぶのは、兵士長としてあるまじきことだ。
――――だが、この胸の内でだけは、誰にも邪魔されずにナナを描ける。
時折――――頭をよぎる。
また一人ベッドの中で……冷たい身体を丸めて、泣いてねぇか。
――――――ただそれだけが心配だ。