第6章 【第四講 後半】マヨネーズは万能食だけど恋の病には効きません
○○の登場で桂は断然やる気を出した。
「リーリーリー!」
と言いながら、反復横跳びのような仕草をしている。
「ヘイヘイヘイ! どうした、どうした、俺を刺すなら今だぞ!!」
投手は一塁へと送球した。
ズザァァァ! と音を立て、桂はベースに手を伸ばす。
「そんな球では俺をアウトには出来んぞ!」
はっはっはと桂は声を上げる。
その視線の先にいるのは投手ではなく、○○だ。
その後も何度か同じことが繰り返される。桂が盗塁を試み、投手が一塁へと送球する。
○○はバッターボックスに突っ立ったまま。
銀魂高校ベンチの心は一つになっていた。
――大丈夫か、アイツ。
一塁に桂がいる状態で○○を代打にしたのは間違いだったかと、銀八は後悔する。
このままでは、○○が打つ前に桂がアウトになりかねない。
危機感を抱いたのは○○も同じ。
「かかって来ーい!」
○○は投手の意識を自分に向けさせる作戦に出た。
バットを空高く掲げる。それ即ちホームラン宣言。
嘗められている。と、投手は思う。
一塁の長髪もふざけた真似を繰り返しているが、チア部の女にまで侮辱されている。
それ以前に、チア部の女を打席に立たせる時点で銀魂高校に嘗められている。
投手は○○のことをただのチア部の女子生徒だと思っていた。
投手は後ろから聞こえる腹の立つ「リーリーリー!」の声に耳を塞ぎ、第一球を放った。
なかなかのスピードだが、打ちやすいストレート球。
「もらったァァァ!!」
○○はバットを力強く振った。
それは狙い通りの場所へと真っ直ぐに飛んで行った。
狙い通りのホームラン――ではない。○○は初めからホームランなど狙っていない。
狙いは一塁、うざい長髪。
○○の放った痛烈な打球は桂の顔面横を通過した。
ガクブルとなる桂に向かって、○○は憤怒の表情で猛然と走る。
「走れ、桂ァァァ!!」
桂が一塁に留まっていては、二人共アウトになってしまう。
桂は恐怖に駆られるように二塁へと走った。
ライトが捕球をした時には、○○も桂もベースを踏んでいた。
ワンナウト、一塁二塁。次の新八へと打順は回る。