第185章 彼岸花⦅宿儺⦆
シン…、と静まり返る家の中。
宿儺は なな と過ごすまで、この広い家の静けさに慣れていたはずなのだ。
だが、なな と過ごし、騒がしく日々を過ごしていた中で、静寂とは無縁になっていた。
「…なな 」
返事をするはずの無い愛おしい人の名を呼ぶ。
「……人間というのは愚かだな。
あっという間に年を取る」
宿儺は庭の中心にある小さな土の山を見つめ、声をかけた。
「また俺の元に戻って来るだろう? なな 」
小さな土の山を囲うように真っ赤な彼岸花(ひがんばな)が風に揺れ
『もちろんです、宿儺』
ふと耳元で聴き慣れた愛おしい人の声に、宿儺はパッと顔を上げた。
「ケヒっ………早く肉体を取り戻して俺の元に戻って来い」
なな の転生を願い、宿儺は口角を上げて笑った。
***おわり***