第21章 姫の祈り
一日の仕事を終え、今夜も月にお願いするために外に出た。
夏の夜空にキラキラと星が瞬き、昼間よりだいぶ涼しい風が髪を攫った。
「どうかワームホールが開きますように」
毎夜こうしてお願いするようになってから謙信様が現れるのを今か今かと期待している。
500年という時の隔たりはあれど、謙信様と同じ月を見ている…そう思うだけで幸せな気持ちになれた。
謙信様と同じものを見て、同じことをしている。
見えない繋がりが一人で居る私の心を温めてくれた。
「謙信様、あなたの言葉を借りるなら愛しています。
この命尽きるまで」
夜風に言葉が攫われる。
舞い上がった髪をおさえながら願った。
お願い…風にのって届いて…この想い……
時を超えどこまでも。
行ったことのない春日山城にいる愛しいあの人の元へ………
夏の虫が鳴く庭でしばらく佇(たたず)んで月に祈り続けた。
私の名を呼ぶ、愛しい人の声が聞こえた気がした…