第45章 酒の力
それは最高に最悪な時間だった。
彼は酒に頼って初めて本音を漏らしてくれた。
けれど、その代わりに私の心を傷つけた。
目が覚めると、彼は何度も私の中に欲を吐き出した後で、彼は私に覆い被さって眠っていた。
彼が私を傷つけたという現実を受け止めたくなくて、雑に体を押しのけると彼の頭が冷蔵庫にぶつかって鈍い音を奏でる。
痛そうな音だったけれど彼が目を覚ますことはなく、私は這い蹲るようにキッチンから離れた。
動く度に股からナニカが零れ、それに何度も心を痛め涙する。
『…はい。どうしました?』
「…ごめん」
呆然としながら壁にかかる時計を見れば、時刻は真夜中を過ぎていた。
『どうしたんですか』
きっと私の声がいつもと違ったのだろう。
電話の向こうの彼は、何かあったことを察してくれた。
「な…なみ、ぢゃん…」
『今どこに』
「…い、え」
『すぐ行きます』
向こうで彼が動く音がする。
「わた、しっ……」
『最低でも30分はかかりますが、緊急を要するのであれば五条さんに連絡し…』
「やっ……そ…は、ダメ…」
『…』
「…なっ…なみちゃん……助け、て」
『…20分で行きます。できるだけ安全な場所にいてください』
電話は繋いだままにしてくれた。
流石にブラジャーのみで外に出るわけにも行かず、上からスポッと着られる布のワンピースを手に取った。
ガタッ
物音にビビるなんて…。
今の私は余程余裕が無いのだと実感した。
今、悟に会ったら、私も悟も…どうなるか分からない。
玄関まで移動してからワンピースを着て、鍵とスマホと携帯を持って外に出た。
廊下に私の泣き声だけが響いていた。