第2章 刻印
その日は美寿子はやはり俺の家に泊まる予定でいたらしく、夕飯として考えていたタコライスを作った。
「冴杜は、もう進路相談表書いた?」
「あー、昨日のやつか…そういえばまだ何も書いてないな…」
「冴杜美容師専門だよね?」
「まぁ…」
悩んでいるのは自分の進路でもあるが、それ以上に美寿子とのこれからの生活を考えてのことだった。
彼女ならきっと頭の良い大学に入るだろうから、その時間を一緒に過ごせないのは、
一般的に見れば気色が悪いと思われるが、俺的には不安を隠しきれなかった。
「冴杜!」
「わわ、ど、どうかした?」
美寿子は俺の両頬をペチンと叩き、俺を見つめた。
「私が誰かに靡くとでも思ってるでしょ?」
「いや…なんと言うか…そんな風には思ってないけど…」
先ほどから食事の手も進まないせいか、美寿子は俺の方までやって来て隣に座った。
「ねぇ、冴杜は私が冴杜をどう思ってるか、知ってる?」
「えっ…そういえば…そんなに考えてない気が…」
「私はね、冴杜と出会って、本当の私を見つけてもらった気がするんだ。
人との関わりをあまり持って来なかった私を、覚えててくれた。知ろうとしてくれた。だからね?私は冴杜以外なんて目に入らないし、気にもならないんだよ?」
「美寿子…」
「だから、私のことは問題なし!
ほら、万が一があっても、痴漢とかなら余裕でしょ?」
美寿子の護身術ならその位大丈夫だろうと思った。
何せ、寝相ですら俺は起こされたことがあるのだから、問題はなかった。
「なんか、そう思うと安心した。」
「そうよ。だから、冴杜は冴杜のやりたいことをやって?」
「…うん。」
そのまま俺たちは隣同士で肩を寄り添い合いながら夕食を済ませた。
しばらくしても帰って来る様子のない2人を心配して俺は連絡をして見たが、電話にも、メールも帰って来なかった。
「どうしたんだろうね。
今日なんか用事あった?」
「今日…か…」
カレンダーをみると、今日はちょうど親父が美南母さんと結婚した日だった。
「あ…そうだったな…」
「そしたら、帰って来るの遅いかな…」
「…だな…」
なぜか2人とも静かになって、不意に目が合わなくなった。
「やっぱ、私今日帰るよ。」