第3章 身をもって
「緊張すんな…」
憧れの場所である威厳を放つ塔の様な建物を、少しだけつり上がった大きな縁の中で光る紺の瞳で捉えながら男が呟く。
緊張とわくわくした気持ちから汗が滲む掌を握り、大きな扉をくぐった
建物内に入ると広い空間が広がっており叫びそうになるのを何とか堪え、ミルクティー色の髪を揺らして受付へと向かう
受付嬢
「ようこそ、ゼフィランサスへ。…本日はどの様な御用でしょうか?」
「あ、えっと…異動で…」
優しく笑んで問い掛ける受付嬢に男の言葉は詰まった。
だが、彼女はその言葉を聞いただけで軽やかなタイピング音を響かせる
受付嬢
「お名前を伺っても宜しいですか?」
「リアム·ランベールです…っ」
受付嬢
「リアム·ランベール様ですね。…はい、確認が取れました。あちらのエレベーターで最上階までお向かい下さい」
手で指された方向を見てからリアムは受付嬢にお礼を述べて、ちょうど止まっていたエレベーターに乗り込む。
最上階へと向かう最中、光る数字が増えるのを見上げながら数日前の事を思い出していた─…
リアム
「良いか、もう万引きなんかすんなよ」
男の子
「はーい。ごめんなさい」
しゅんとする子供を見てつり上げていた眉を僅かに下げて、小さな頭を撫でる。
男の子はまた小さく謝ってから家へと帰って行った
それを見送ってからリアムは室内へと戻り、ギシッと音をたてる椅子に腰を掛ける
リアム
「あー…俺も早く捕まえてぇなー」
同期
「小さな万引き犯、捕まえただろ」
リアム
「そういう事じゃねぇよ」
同期
「へいへい、分かってるって」
後ろで報告書を作成していた同期の揶揄う様な声に溜息混じりにリアムは言葉を吐き出す。
同期
「守護官っつっても、ただの候補生だもんなー…俺達」
リアム
「だな。シンメ卒業して4年も経ってんのに未だに候補生だからな…」
どんよりとした空気を纏う二人は、憧れを胸に候補生から抜け出そうと日々過ごしている