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Smile Bouquet

第2章 悲しくて暖かい場所




「ほら、これをレティシアにやろう」

レティシア
「お花…」


幼い手へ渡される一本のオドントグロッサムを、少女はじっと見詰める。
物珍しそうにする少女へ、眼帯で左目を隠している銀髪の男が静かに声を掛けた


「嫌いか?」

レティシア
「好き。嬉しい。…ありがとう、ユリス」

ユリス
「嗚呼。…2日だけ家を空けるが、ここに居て良いからな」

レティシア
「…うん」


豊かではない少女の表情が喜びから寂しさに変わった様に感じた男は、身体を折って少女の紫の瞳を覗き込む


ユリス
「すぐに帰ってくる。……良いか?誰か来てもドアは開けるなよ」

レティシア
「分かった」


その後も少し五月蝿い程に注意してから男は家を出て行く。

2日だけ、そう言っていた筈なのにその男は4日も帰って来なかった。
少女の小さな心が張り裂ける寸前で、やっと男が帰宅した


ユリス
「ただいま」

レティシア
「…おかえり」


僅かに表情を緩ませた少女は、男へ駆け寄り服を握るようにして抱き着く。
少女の綺麗な金の髪を撫でながらも、男は小さな異変に気付くとゆっくりとしゃがみ


ユリス
「…何かあったのか」

レティシア
「ユリスに貰ったお花…お水換えてたのに萎んじゃった」


その言葉にテーブルの上に置いてある、グラスに凭れ掛かった花に目をやる。
それは、あの日少女へ渡したものだった


ユリス
「そんな落ち込むな。またやるから」

レティシア
「ほんと?」

ユリス
「本当」

レティシア
「ありがとう、ユリス」









レティシア
「あの後、本当に花をくれたよな。今度は1本じゃなく束で。しかも、豪華な花瓶までくれてさ…初めての体験はいつだってあんただった」


薄暗く陰鬱とした雰囲気が漂う場所に立つ、綺麗な金の髪を持った女性の呟きが静かに響く


レティシア
「あぁ…そうだ、今日は新人が来るんだ。………ユリス、あんたが死んで5年も経った。私も、もう25だ…あの日あんたに言われた事、貫けてんのかな」


悲しげな声色と共に変わる彼女の表情は、少女の頃とは違っていた。


紫の瞳の先にはオドントグロッサムの花束が供えられていた─…



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