第18章 あとがき
【仕返しの夜】
……この気配。誰か、入ってくる。
まあ、自分の寝室に入ってくるのはーー僕、西園寺羽京の彼女でもあり、結婚相手の葵ぐらいだが。
いつもは規則正しく寝ているが、昨日いっぱい葵に【どちらか寝るまでキスする刑】を執行したせいだろう。体内時計が狂っていた。
未だに眠れないままぼんやりしていると明かりが見えた。そろーっと音を立てない様に慎重に入って来たその人物。
……薄目を開けると、やはり葵のシルエットだ。手元にゆらゆらと松明を持ちながら、じーっとこちらを見ている。
え、なんだろう…。ちょっと怖いんだけど……ホラーなんだけど…??
まさか、夜這いかな…にしては、なかなか来ないし。ずーっと立ちっぱなしだ。本当になんだろう。
僕はそう思いつつ、寝返りを打つフリをして、ゴロンと廊下側に身体を寄せる。
「……!」葵が少し驚くが、特に目立った反応無し。
…………。参ったな。本当に僕を見てるだけだ。何の為に??
すると、彼女の松明の明かりが消えた。コトリ、と消えた松明を床に置いて、葵がそろりそろりと近づく。少し身を固くしているとーー
布団に頭を乗せる様にして、にこにこと此方を眺めている。
「…ふふ、寝顔やっぱり可愛いなあ……」
!?!?
突然の【可愛い】に反応仕掛けたのを、寝返りで誤魔化す。
「あ、また寝返りした。可愛い~~」
僕は赤ちゃんか。思わず内心で突っ込むしかない。
「……お顔、眩しくて直視出来ないから…
せめて暗い時くらいはいいかなあ……」
……あ。その寂しそうな声で思い出した。
ーー付き合う前に、彼女が勝手に夜に部屋に侵入した事があった。あの時ももしかして。
単純に、僕の顔が見たかった?
「……つっ……!!」
思わずガバリと起き上がる。わっ、と驚く彼女を他所に、無理やり腕を引っ張って布団の中に引き摺りこんだ。
「あの、羽京君?起きてたんですか…?」
「…うん」僕は答える。
「ちなみにどの辺から…?」
「君が入って来た時から」それ全部では…?と言いかける彼女に、ぐいと自分の顔を近付ける。真剣な顔付きに、彼女も沈黙した。
「……顔が見たいなら、言ってよ……」照れて赤くなった所まで見えてない様に。そう祈った。