第14章 Sketch5 --朝凪のくちづけ
凪いだ波はおだやかにあわい光の稜線を繋ぎ、その後彼の元へと寄せてはまた還っていく。
夏の朝に会うので、彼はいつも涼し気な表情で私を見る。
「……そんなことない。 タクマさんは全然違う」
歳取るワケだ、そう言った彼に私が反論する。
「なにがよ」
「なにが、って…若いし、昔から…スゴくかっこいいし」
興味が無さそうに目線は正面を向いたままの空返事。
「フン…」
もう何年も見続けている彼の横顔。
切れ長の目と、すっとした頬の線は冷たく見えるけどたまに笑うととても優しい。
「……タクマさん、あの」
「ん?」
彼が投げ出した裸足の指先にはいつも砂がついている。
彼は早朝に波打ち際を歩き、暑くなるまでの一時間ほどをこの砂浜で過ごす。
「私…も。 変わったかな? たとえば女らしくなった…とか、思う……?」