第13章 Sketch4 --帰路
昨晩香奈江と歩いていた後をなぞりながら、俺は職場までの道を歩いていた。
また忙しなくさえずりはじめた鳥の声と湿った地面の匂いを嗅いで、いつの間に雨が止んでいた事に気付いた。
「あ、昨日の彼氏さん?」
声を掛けられ目を上げると昨晩ケーキを買った所の店員だった。
掃除の最中らしく、店の前を掃いていた。
「お誕生日の彼女さんご一緒じゃないんですか?」
「あの後みんなで、お二人とも素敵なカップルだったねって盛り上がっちゃって」
はしゃいだ様子でそんな事を言う。
夢みてたみたいな、一年間。
香奈江。
結局プレゼントを買ってあげられなかった。
ケーキなんかちっぽけなもので目を潤ませて。
驚いて丸くなってた香奈江の瞳は初めて出会った頃、もっと怯えた色をしていた。
それがいつしか、俺なんかでころころ表情が変わる様になったんだ。
『それでも、言葉は大事なんだよ。伝えられる事って幸せなんだよ』
最期に見たのは馬鹿みたいに綺麗な女の顔だった。
「お仕事頑張って下さいね!」
そう元気に口に出した店員に手を挙げて、俺はこれまで通っていた職場とは逆方向の道を歩き始めた。
俺の仲間のいる、自分の本来の居場所へと。
[完]