第11章 Sketch4 --日常
「香奈江、金曜だけど今晩用事は? 無かったらメシでも行くか?」
「無いよ! じゃ、LINEしてね」
俺より一足先に出社する香奈江が、軽く俺にキスをして玄関に向かった。
閉まるドアの後に軽やかなヒールの音を聞きながら、心無しかほっとする。
付き合って間もなく、香奈江は転職をした。
当時は上司から今時酷いセクハラを受けていた。
あらぬ噂もあって、周りからも虐められていたと。
香奈江に転職を薦めたのは俺だったが、どうやら今回はうまくやっているらしい。
元々は思い遣りがあって頑張り屋の彼女。
たまたま不運だっただけだと思う。
明日は香奈江の誕生日だ。
少し奮発してあいつの好きなパティ、何とかでも行ってみるかな、そんな事を考えていたら俺のスマホのバイブが鳴って震えた。
『今晩19時にお前の会社の近くにある○✕ビルの屋上で』
それだけのSNSのメッセージ。
見知らぬ番号だった。
「………ッ」
また頭痛か。
最近、益々頻度が増えている。
額に手をやりながら舌打ちしつつ、つい悪態をついた。
「──────いい加減にしてくれよ」