第10章 Sketch4 --Angles
ドアが大きく内側に開かれると一緒に女が飛び込んできた。
その声を聞いた瞬間、先程からの頭痛が何かに吸収されるかの様にすうっと収まった。
起き上がりかけていた俺と彼女の目が合う。
女が目に涙を溜め、横になっている俺のベッドに走り寄ってきた。
その顔を顔を歪ませて。
「香奈江(かなえ)、どうした?」
自然に口をついて出て来た言葉に自分で驚きながらも声を掛けると、彼女の表情が益々崩れて大粒の涙を落とし始める。
「どうしたじゃ、無いでしょお……」
これもまた反射的な行動だった。
香奈江の背中に向かって手を伸ばす。
彼女は俺の胸の辺りのシーツの上に顔を伏せて肩を震わせていた。
「雅……心配した」
白のシーツに黒く真っ直ぐな彼女の髪が扇みたいに広がっている。
今更の様に気付く。
病室には俺と香奈江の他には誰も居なかった。
その後俺は入院中に頭痛に悩む事も無くなった。