第17章 Sketch6 --風龍
それでも水中と較べて重苦しさの含まれたその行為は、なかなか上手くいきませんでした。
たまに夢中になり過ぎて加減を忘れしまう風龍に、どうしても時折の苦痛を感じてしまいます。
それを我慢する方に気を取られ、わたしの体は固く強ばっていきました。
それに気付いた龍は途中で行為を中断し、胸の中にわたしを収めました。
「すみません……」
「初めて迎えた花嫁に急ぎ過ぎたのはこちらかもしれない。 そもそも今日は、しるしを与えるだけのつもりであったのに」
だが私にそうさせたのはお前だ、そう言って結局わたしのせいにする割に、風龍はぴったりと体を合わせてわたしを抱きしめるのでした。
そうして薄い雲が立ちこめる中で、わたしはふたり目の龍の妻になりました。
***
夫は、変わった龍のように思えます。
思えます、そう言ってしまうのはわたしにとっては彼はそう変わり者でもないからです。
「寝床や住処を持たないのですか」
今日はこの辺で寝よう、と切り立った崖の上に胡座をかいて座る夫に、思わず周囲を見渡してしまいました。
それでなくとも、せめてもう少し安定した場所があろうものなのに。
「風を感じる場所でないと眠れないのだ。 そして毎日それは違うものがいい」
谷底から押し上げるようにびゅうびゅう吹く風も、彼にとっては心地の良いものなのでしょうか。
「雨露や寒さはどうやって防ぐのですか?」
「そんなものは私には関係がない」
確かにいつも春風を肌の一部のように纏う彼にとってはそうかもしれません。
「こんな場所は嫌か」
そう訊いてくる夫に首を傾げ、では陽の光の強い所はどうですかと聞き返しました。
「それはさすがに勘弁だな。 陽は防げない」
嫌そうに眉をしかめる夫に同意したわたしは彼の傍に座りました。
「抱いて寝てくださると嬉しいです。 わたしは寝心地がよければどこでも構いません」
「寝心地………」
「あっ、すみません。 あなたを寝床代わりのように」
慌てて言い直そうとする私に彼は含み笑いでそれを制しました。
そして膝の上に私を乗せ、自分にもたれかかれと言ってきます。
「どうだ? 私の寝心地は」
「…………とても、いいと思います」
小さな声でそう言うとそれは良かったと頭の上から声が降ってきました。