第17章 Sketch6 --風龍
「ん………おや?」
「どうかしましたか」
ふと頭に落ちてきた不審げな声に反応すると、風龍は口をへの字に曲げ、曖昧な言葉をかえしてきました。
「んー……? なんだろうな?」
「…………」
初対面の龍の考えなどわたしには分かりません。
「よし、もう乾いた。 ……ええと、お前の名前は」
「……あっ…すみません! わたし、ご挨拶もせずに!!」
急いで後ずさりをして跪こうとするわたしの頭の上に手を乗せて、彼が静かに首を振りました。
「私はそういう堅苦しいことは苦手というか、嫌いでね」
ふー、とため息をつく龍に、何やらわたしが彼の気分を害してしまったことは分かりました。
「すみませっ……」
「同じことを二度言わせるんじゃない」
冷たくぴしゃりと跳ねのける冷たい声に、わたしは震えました。
水龍の優しさに、今まですっかりと慣れて甘えていたのかもしれません。
彼らは本来、人びとから恐れられ、敬われている龍。
たとえ花嫁であろうとも、わたしはただの人間なのです。
今まで彼とした会話の記憶を必死にたどり、わたしは小さく口を開きました。
「─────沙耶と申します」
「それでいい。 私の花嫁が頭のにぶい女ではなくて嬉しく思う。 さて。 そろそろ行こうか、沙耶」
「えっ……きゃっ!」
再び私の体を抱きしめた風龍の足からは地面が離れていました。
その下にうずまきのような空気の集まりができたかと思うと、ぐるぐるそれがまわり始め、おおきくますます速くなり、周りの草葉を巻き込みます。
それが目で追えないほどの回転になったと思った途端、わたしたちは高く空へと飛び上がりました。
「…………っ」