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僕と彼女の声帯心理戦争

第1章 【プロローグ】宣戦布告


「羽京君、おはようです〜。今日も来ましたよ〜」

そう言いつつ自分の横に座った少女。
晴れやかな笑顔に、蒼い海の様な煌めく大きな瞳。
風に揺らぐ腰まで伸びた白銀のロングヘア。器量良しな上ロングスカートにモフモフとしたポンチョを着た愛らしい姿を見れば、誰もが彼女に対して好感だけを抱くだろう。

ーーただし、僕を除いて。
「あはは……おはよう」僕は少し固い表情のまま、少女の顔を貫く様な視線を射る。

「羽京君は今日も容赦ないですな〜」少し冷たい返事に臆する事無く、少女ーー葵は立ち上がりぐい〜と背中を伸ばした。
「さて、今日も始めますか」にやり。彼女は機械めいた完全左右対称の、不吉な笑い方を僕にだけ見せた。

「何を始めるの?」
「え〜?しらばっくれないで下さいよー。大体今日も今日とて、まだ監視状態だし〜」ぶーぶーと拗ねる葵を他所に、羽京はため息をつく。

「……君がそう仕掛けたんだよね。葵」
「ん〜何のことだか〜!!でも私は楽しいですよ、この戦争!」

目覚めと【全く同じ】無感情に聴こえる声・表情・ポーズで繰り返される左右対称完全無欠の笑顔。それを眺めながら、羽京は一日の始まりを複雑な気持ちで噛み締めた。

そう。言葉にして認めはしなかったがーー
これは、突然の来訪者・西宮葵と元ソナーマンの僕・西園寺羽京。超絶技巧の彼女の声帯と海自史上最高の地獄耳の僕の聴覚による、心理戦争の記録である。

話は1月、冬の真っ最中まで遡るーー

******
「司さんですよね。何してるんです?」
振り向けばそこに居たのはキョトンとした顔をして首を傾げる西宮葵だった。

司の胸中に何故気配に気付かなかんだろう、と自身を責める感情がよぎる。だがそれも刹那の事。石像を壊す作業に集中し過ぎていただけだ、と言い聞かせ冷静に答えた。

「見た通りだよ。石像を壊してまわってるんだ」
「それは分かりますよー。ここが若者達だけの国で、理想郷って事も。私が復活した時に聞きました。だからかなーとは思うんですけど…。うーん…、ここまでする必要、あります?」

意外にも食い付いてくる葵に正直司は驚いた。いつもの彼女から予測出来る発言では無かったからだ。
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