第32章 好きな人の初恋の人
「おはよう」
「カノト!もう熱は平気なの?」
「あたし達すっごく心配したんだから!」
マイキーの看病が効いたのか、翌日には熱も下がり、本調子に戻ったカノトが教室に入るとクラスメイト達からの心配そうな声が飛び交う。
「心配かけてごめんね。もう熱も下がったし平気だよ。みんなも風邪には気をつけてね」
ニコリと笑えば、そのカッコ良さに女子達がきゅぅんっと胸をときめかせる。自分の席に行き、鞄を机の上に置く。
「おー宮村、もう風邪は治ったのか?」
「万全だよ」
「お前が風邪で休むなんて珍しいな」
「体調管理はしっかりしないとね」
友人が上体を捻り、体を後ろに向ける。椅子に座り、鞄から教科書やノートを出して机の中にしまい込んだ。
「お前が休みだって知った時の女子達の悲鳴、録音して送り付けたかったわー」
「そんなに凄かったの?」
「まさに阿鼻叫喚ってやつだったぜ」
「阿鼻叫喚って…大袈裟じゃない?」
「いーや!顔がムンクの叫びみたいに酷かったんだぞ!」
"こんなん!"
そう言って頬に両手を添えた友人がミイラのような真似をする。
「おはよ、二人とも」
「よぉ吾妻。朝から女連れで登校とかモテる男はやっぱ違ぇわ。あれって隣のクラスの可愛い子だろ?」
「覗き見とか悪趣味だネ♪」
「人を覗き魔みたいに言うんじゃねぇ!教室の窓からお前とその子が二人揃って登校してんのが見えたんだよ!」
ビシッと友人が開いた窓を差す。
「もしかしてあれか?文化祭の時にお前が盛大に告ってた子か?付き合ってんの?」
「!」
何も知らない友人の揶揄う言葉にカノトは肩を跳ねさせる。それに悠生も気付いたが、敢えて触れずにスルーした。
「付き合ってもないし、俺の好きな子はあの子じゃない。あんな子よりもっと素敵な人だよ」
「……………」
「"あんな子より"って…お前なぁ。まぁいいや。マジでその子のことが好きなのか?」
「当たり前だろ。本気じゃなかったらあんな大勢の前で告らないよ」
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