第9章 もうヤダよ
ーーーお別れの時間
そう告げる秀一くんは、まるでプレゼントを開ける前の子供のようだった。
とても楽しいことが待っている様な…わくわくしたような…そんな顔をしていた。
「に…げろ……美琴…!」
和也が真っ直ぐに私を見る。
その時気付いた。
和也の真っ白なワイシャツが、一部、赤く染まっていた。
和也の顔も、アザができ、腫れて、痛そうだった。
「……秀一くん…和也に何したの……?」
「んー?言ったでしょぉ…?お姉ちゃんの世界は、綺麗じゃなくちゃいけないんだよぉ…?」
目をギラギラと光らせ、口角が上に上がっていく秀一くん。
そこのいる秀一くんは、秀一くんであって、秀一くんじゃなかった。
「僕以外ぃ…お姉ちゃんに見えないようにしないといけないんだよぉ……??」
「そ…れが……世界が綺麗になるってことなら…私は汚れたままの世界でいいよ!」
言ってることがめちゃくちゃなのは、秀一くんも私も一緒かな…
でも、秀一くんには私の言いたいことがわかったみたいで、ピクと、体が反応した。
いつの間に持っていたのか、包丁が秀一くんの手からスルリとぬける。
伝わった……?もう、やめてくれるのかな…
ダラリと、力無く降ろされた腕。
俯き、しんと部屋が静まり返った。
「しゅうい…」
「………だよ」
「え?」
声が小さくてよく聞こえない……
俯いた顔。
たれた前髪の隙間から、唇がかすかに動いたのが見えた。
そして秀一くんが顔を上げる瞬間。
「なんでだよ……ぉかしいだろっ…!!」
という叫び声を上げ、床に落ちた包丁を取り、私から和也を奪う。
「そっかぁ…お前のせいだ……やっぱり…会わせるんじゃなかったよ…」
私の目の前で、秀一くんは包丁を和也に突きつける。
喉元、皮膚に刃が当たる寸前の距離に。
「…く……」
すでにボロボロの和也には抵抗する力もないらしく、秀一くんのされるがままになっている。
「お姉ちゃん、安心してよ…こんな奴、早く消してあげるから…」
や、やめて……
殺さないで。
お願い!