第20章 寒空の恋人
「ねぇ、妹子ちゃん」
午後の忙しい厨房。お兄ちゃんがお店で接客をしているので、今は
私と悲鳴嶼さんの二人でアップルパイに林檎を包む作業をしている。
並べたパイ生地に、煮た林檎を挟んでいく。
二人でせっせと作りながら、悲鳴嶼さんは不意に私を見つめて言った。
「何ですか?悲鳴嶼さん」
悲鳴嶼さんはいつも優しい。見た目こそ、大男で格闘家という感じの悲鳴嶼さんだけど、話し方も穏やかだし、仕事場でも落ち着いて仕事をする悲鳴嶼さんがいるだけで、私はホッとする。
私がする小さな失敗も、笑いながらフォローしてくれるし、大好きな先輩だった。
お仕事しながら、こうしてお喋りするのも楽しい。意外とラブリーな人だから、私は悲鳴嶼さんとお話するのが好きだった。
悲鳴嶼さんは、目をキラキラさせながら私を見た。
「妹子ちゃん、煉獄君は元気かな?」
不意に煉獄さんの事を聞かれて、私はドキッとした。この前、煉獄さんが私の部屋に泊まって一緒に過ごした夜の事が一瞬、頭をよぎったから……。
煉獄さんの裸の胸が思い出されて、私は一人でポッと赤くなりそうだった。
悲鳴嶼さんを見上げて、私は急いで笑顔を作る。
「煉獄さんは、すごく元気です!悲鳴嶼さんとメッセージしてるって嬉しそうに言ってましたよ」
「ああ、そうなんだ!この前一緒に食事した時にお友達になったからね。メッセージも送り合っているよ。煉獄君は明るい人だね。
お互いに走った距離を報告し合ったりが楽しいんだ〜!」
悲鳴嶼さんはウキウキするといった表情で言った。
「煉獄さんも、悲鳴嶼さんの体力がすごいって言ってました。一緒にトレランしたいけど、お休みが合わないのが残念だって」
煉獄さんの言葉を思い出しながら言うと、悲鳴嶼さんは吐息をついた。
「ああ…。煉獄君と一緒に山をどこまでも走りたい…南無…」
煉獄さんを恋しそうに言う悲鳴嶼さんが可愛いくて、クスッと笑った。
「そうだ!不死川君も、良い男だね。二人を見ていると、胸が高鳴るんだよ。この気持ちは何だろうね?」
「悲鳴嶼さん、それは恋じゃないですか?」
厨房に入って来たお兄ちゃんが引き出しを開けながら言った。
「……そうなのかな?」
まんざらでもなさそうに言う悲鳴嶼さんは、やっぱり可愛い。